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  • 公開日時 : 2021/06/01 17:07
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ペッキングオーダー理論

ペッキングオーダー理論
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回答

ペッキングオーダー理論(Pecking Order Theory)とは、ペッキングオーダー仮説(企業の投資資金の調達順序に関して、内部資金(内部留保、現預金の取り崩しなど)、負債、株式の優先順位で資金調達を行うとする仮説)を、情報の非対称性の問題の観点から説明する理論モデルのことである。
 
ペッキングオーダー理論では、企業経営者と投資家の間で情報の非対称性が存在するならば、さまざまな資金調達手段の間に資本コストの差が生じ、資金調達方法の序列、すなわちペッキングオーダーが生じると説明する。
 
 
さらに詳しく

 
 
【ポイント】
 

  • ペッキングオーダー仮説
Donaldsonは、米国企業の投資資金の調達について、まずは内部留保を用いて、それで足りなければ負債、最後に株式発行の順で資金調達を行っていることを発見した。この経験則を、鶏のつつきの順位(pecking)にちなんでペッキングオーダー仮説という。
 
ペッキングオーダー仮説に基づき企業の資金調達方法を考えると、まず内部留保、次に流動性の高い現預金の取り崩しなどで資金調達を行う。続いて、負債の中では比較的企業に近い関係にある銀行からの借入が社債よりも優先され、最後に株式発行という資金調達の順序になると考えられる

  • 情報の非対称性の問題とペッキングオーダー理論
ペッキングオーダー仮説に関して、情報の非対称性の問題が企業の資金調達行動にどのような影響を与えるのかに着目し理論的に分析したのがMyersとMajlufである。
 
企業の経営に関して、経営者は情報の優位者であるのに対して、投資家は情報の劣位者である。この情報の非対称の存在によって、投資家は企業の投資プロジェクトとの善し悪しを区別できず、どの企業に対しても平均的な評価を行うことになる。これにより、収益性の低い企業にとっては株価が過大評価され、逆に、収益性の高い企業にとっては株価が過小評価されていることを意味する。したがって、株価が過大評価されている収益性の低い企業の方が、収益性の高い企業よりも株式発行を行うインセンティブが高いと考えられる。逆に、収益性の高い企業は株式発行を行うこと嫌い株式発行を行わないとすると、過小投資問題が生じることになる。
 
このとき、収益性の高い企業が現金などの内部資金を十分に保有していれば、上記の情報の非対称性の問題を回避できるため過小投資問題を回避できる。あるいは、投資プロジェクトのキャッシュフローが十分に大きく負債の返済が滞るリスクがほとんどなければ、(事実上、投資家にとって無リスクの)負債は内部資金と同様に機能する。そうでなくとも、借入や社債といった確定債務である負債による資金調達は、株主発行による既存株主の希薄化を避けることができるため、株式発行よりは好まれると考えられる。
 
このように考えると、ペッキングオーダー仮説は情報の非対称性の問題に対する企業の合理的な対応の結果生じる資金調達行動と解釈できる。

  • 株価の反応に対するインプリケーション
上記のメカニズムを投資家が理解していれば、株式発行を行う企業は収益性の低い企業であるというシグナルを投資家に送ることになる。実際、アカデミックな実証研究によると、企業の増資のアナウンスメントに対して株価は下落することが確認されており、ペッキングオーダー理論が成立することを示唆する結果と解釈されている。
 
なお、ペッキングオーダー理論は、企業のフローの資金調達の優先順位に関するものであり、ストックである企業の資本構成について直接的に説明するものではないことには注意が必要である。
 
 

(参考文献)
Donaldoson, G. Corporate debt capacity; a study of corporate debt policy and the determination of corporate debt capacity. Harvard University, 1961.
Myers. S. C., and Majluf, N. Corporate Financing and investment decisions when firms have information that investors do not have. Journal of Financial Economics 13, pp.187-221.