EMS通貨危機(EMS Currency Crisis)とは、1992年から93年にかけて発生した、
欧州通貨制度(European Monetary System、EMS)におけるバスケット通貨である
欧州通貨単位(European Currency Unit、ECU)およびその構成通貨に対する
通貨危機を意味する。
1979年に導入された
欧州為替相場メカニズム(European Exchange Rate Mechanism、ERM)は、1980年代後半以降は比較的よく機能していた。しかし、1990年に東西ドイツが統合されると、ドイツでは拡張的な財政・金融政策が行われ、これによる
インフレ―ションが懸念されたため、金融引締め政策が採用され、金利が上昇した。このため、ドイツ以外のEMS参加国はドイツの高金利政策に追随できず、ERMを維持できないのではないかという懸念が広がった。
このような中、1992年6月2日にデンマークでマーストリヒト条約批准が拒否された。さらに、同年9月20日に行われるフランスの国民投票でもマーストリヒト条約批准が拒否されるかもしれないという憶測から、EMSに参加する通貨に
投機攻撃が加えられた。この結果、9月16日にはイギリス・ポンド、17日にはイタリア・リラがERMから離脱した。EMS通貨危機は1993年に入ってからも続き、同年8月2日には、ERMの挙動変動幅が拡大された。
(参考文献)
小川英治,『国際通貨システムの安定性』,東洋経済新報社,1998年