ファクターモデル(Factor Model)とは、任意のリスク資産の
リターンは、多くの資産に共通するいくつかの系統的な要因(ファクター)によって決まるというモデルである。
ファクターモデルによれば、リターンの変動は、ファクターの変動と資産特有の要因による変動に分解できる。ファクターとしては、マーケット全体のリターンや企業の時価総額に応じたリターンなど市場の情報を集約したもの、金利、
GDP、物価、雇用率などのマクロ変数、産業属性に関わるものなどが考えられる。ファクターの数が1つの場合、シングルファクターモデルと呼ばれ、2つ以上の場合はマルチファクターモデルと呼ばれる。
【式1】
ファクターローディングの値は企業によって異なる。各ファクターの影響はファクターローディングの大きさで決まる。
さらに詳しく
【ポイント】
CAPMは、ファクターがマーケット超過リターンであるときのシングルファクターモデルであると解釈することもできる。ファクターをマーケットの超過リターンとするときのシングルファクターモデルは、式2となる。
【式2】
この両辺の期待値をとると、式3となる。
【式3】
市場リスク以外にも様々なファクターが考えられており、複数のファクターを考えるモデルはマルチファクターモデルと呼ばれる。実証研究では簿価時価比率や企業規模のファクターを考えた
Fama-French 3ファクターモデルなどが有名である。
裁定価格理論は、資産のリターンがファクターモデルに従う下で、資産の
リスク・プレミアムを決定する理論である。N個のファクターによって資産のリターンが決まるとき、十分に分散化されたポートフォリオのリスク・プレミアムは、ファクターのリスク・プレミアムとその感応度によって決定される。
【式4】
ただし、λkはファクターkのリスク・プレミアム(Market Price of Risks)であり、βikは当該資産iのリターンのファクターkに対する感応度(Quantity of Risks)である。
裁定価格理論はCAPMよりも多くのリスクファクターを考えることができる。また、CAPMには、Rollの批判のように真のマーケットポートフォリオを特定する必要があるという問題が存在していたが、裁定価格理論では
マーケットポートフォリオを特定する必要はなく、リターンの正規性も仮定する必要がない。
裁定価格理論の仮定は①リターンがファクターモデルに従っていること②
安全資産が存在すること③十分な分散が可能であること④裁定機会が存在しないことである。このように裁定価格理論の仮定はCAPMに比べて少なく、また市場リターン以外の要因もリターンに影響を与える可能性を考慮できる。しかし、リターンに影響を与えるファクターが何であるかということは述べられていない。
Ross, Stephen A. "The arbitrage theory of capital asset pricing." Journal of Economic Theory 13.3 (1976): 341-360.