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  • No : 1193
  • 公開日時 : 2018/12/26 10:31
  • 更新日時 : 2019/09/05 16:27
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銀行貸付

銀行貸付
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回答

銀行貸付(Bank Lending)とは、金融仲介機関の1つである銀行が、企業や個人などに対して資金を貸し付けることである。
 
銀行が借り手の選別(スクリーニング)と監視(モニタリング)を行うことにより、低いコストで資金を貸し付けることが可能となる。
 
 
さらに詳しく

 
 
【ポイント】
  • 銀行貸付の仕組み 
銀行貸付の方法は、手形割引、手形貸付、証書貸付、当座貸越の4つに大別される。手形割引は、銀行が満期前の手形を買い取り、手数料や満期日までの利息相当額を割り引いた額を貸付ける。手形貸付は、約束手形を銀行に差し入れ、額面から利息相当額を差し引いた額を貸し付ける。証書貸付は、「金銭消費貸借契約書」を銀行と取り交わし、その契約にもとづき資金の貸借が行われる。当座貸越は、一定額を限度として、当座預金残高を超える資金を貸し付ける貸付方法である。一般的に、手形割引、手形貸付、当座貸越は、短期資金の貸付で用いられ、証書貸付は長期資金の貸付で用いられる。
 
どのような方法で貸付を行おうとも、銀行と企業や個人などの借り手の間に情報の非対称性が存在するため、銀行は、借り手に関する情報を収集・分析する必要がある。これを情報生産機能という。
 
銀行が生産する情報は、財務諸表などのハード情報と、経営者の経営能力などのソフト情報に大別できる。ハード情報を用いた貸出形態をトランザクション・バンキングと呼び、ソフト情報を用いた貸出形態をリレーションシップ・バンキングという。日本では、中小企業向け貸付においてリレーションシップ・バンキングが推進されている。中小企業は、大企業と比べて相対的に情報の非対称性が大きいため、長期的かつ多面的な関係構築によって生産されたソフト情報を用いるリレーションシップ・バンキングが有効である、と考えられるためである。
 
  • 銀行貸付を利用する場合のコスト面でのメリット 
資金の貸借契約前の情報の非対称性によって発生する逆選択の問題は、銀行が適切な貸付先であるかをスクリーニングすることで解決可能である。貸借契約後の情報の非対称性に起因するモラルハザードの問題は、貸付先が契約を遵守するように銀行がモニタリングを行うことで解決可能である。コストを払えば、個々の投資家もスクリーニングとモニタリングを行うことは可能だが、投資家が個々で行うよりも、銀行に委託するほうがコストは安くすむと考えられる。
 
例えば、1つの企業に対して複数の投資家が個々にスクリーニングとモニタリングを行った場合、そのコストを個々に負担することになってしまう。しかし、投資家が銀行に委託した場合、銀行だけがそのコストを負担すればよく、結果として投資家1人当たりが負担するコストは相対的に安くなる。ただし、委託した銀行に対する投資家のモニタリングの問題が生じるが、これに対しては(ペナルティ付きの)負債契約を用いることで解消できることが、理論的に示されている。
 
貸し手と借り手の間に情報生産の非対称性がない場合であっても、将来発生するあらゆることを想定し、貸借契約に明記することは、一般的に困難である。契約に明記されていない状況が発生した場合には、コストをかけて再交渉する必要があり、再交渉にかかるコストは、企業が各投資家に対して行うよりも、1つの銀行と行うほうが安くなると考えられる。以上から、資金貸借において銀行に仲介を任せたほうが、投資家と企業にとってコスト面でメリットを得られる。
  • 日本における銀行貸付と不良債権問題 
銀行貸付は、日本において広く用いられており、特に中小企業が9割を占める日本においては、銀行からの借入れが重要な資金調達手段である。現在では、中小企業に対する貸付にソフト情報を用いた、リレーションシップ・バンキングが推進されている。従来、銀行に情報生産に関するノウハウが足りず、主に担保や保証に依存した貸付が中小企業に対しても行われる傾向にあった。特に、バブル崩壊前では、不動産価格が高騰していたために、不動産担保が利用されていた。バブル崩壊後、景気の落ち込みや不動産価格の下落が銀行の不良債権の増加につながり、巨額の不良債権処理に長い年月と努力を費やすこととなった。
 
バブル崩壊後、銀行の健全性の回復のために、積み重なった巨額の不良債権を処理することが必要であった。しかし、日本では、1993年より銀行の健全性の指標の1つであるBIS規制が適用され、銀行が業務を行うために、一定の自己資本比率の水準を満たすことが求められている。
 
巨額の不良債権の処理を進めれば、銀行の自己資本比率の低下につながり、大量の不良債権を抱える銀行は、業務の継続ができなくなる可能性があった。そのため、不良債権処理による自己資本の減少を和らげるために、公的資金の注入などが行われた。
 
本格的な不良債権処理は、2000年代に入った金融再生プログラムの導入からである。下記図からわかるように、2002年頃から銀行と信用金庫の不良債権比率は低下傾向にある。このような経験の反省から、中小企業向け貸付では、担保や保証に依存しない貸付として、リレーションシップ・バンキングの推進につながった。2018年現在、銀行の預貸率は低下傾向が続いており、預貸率の水準だけでみれば銀行は集めた預金を十分に貸付に回せていない状況にある。また、金融政策による長引く低金利によって、銀行の収益は低迷しており、従来のビジネスモデルの再考を迫られている。
 
【図】不良債権比率の推移
不良債権比率の推移の図出所:金融庁「金融再生法開示債権等の推移」
 

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