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  • No : 1303
  • 公開日時 : 2019/06/28 13:32
  • 更新日時 : 2022/02/22 10:50
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エージェンシー問題

エージェンシー問題
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回答

エージェンシー問題(Agency Problem)とは、依頼人(Principal、プリンシプル)と代理人(Agent、エージェント)の間に生じる利害対立問題のことをいう。
 
代理人が依頼人の意向通りに業務を遂行するとは限らないことから生じる非効率性を、エージェンシーコストと呼ぶ。企業の株主(依頼人)と経営者(代理人)の関係は典型的なエージェンシー関係にあり、このエージェンシーコストを最小化するために、コーポレート・ガバナンスの考え方が重要となる。
 
エージェンシー問題の背景として、例えば、依頼人は代理人に契約を通じて業務を依頼しても、代理人と同じ情報を観察できない情報の非対称性の問題がある。あるいは、契約通りに業務を遂行したか否かを第3者が立証できるとは限らないことから生じる不完備契約の問題が存在する可能性もある。これらの問題に対して、代理人に対して依頼人の意向通りに業務を遂行するインセンティブの付与が必要となる。また、経済学のエージェンシー理論においては、エージェンシー・スラックが生じることをエージェンシー問題として捉えている。
 
 
さらに詳しく

 
 
【ポイント】
  • 様々なエージェンシー関係
経済活動においては、経営者、債権者、サプライヤー、顧客、政府、ひいては社会全般など、いわゆるステークホルダー(利害関係者)の間に様々なエージェンシー関係が存在する。例えば、経営を委託する株主と委託される経営者のエージェンシー関係、資金を融資する銀行とその資金による生産活動を委託される企業(株主)のエージェンシー関係などが知られている。
 
それ以外にも、預金者と銀行を監督する規制当局の間は、モニターを依頼する預金者と依頼される規制当局というエージェンシー関係があると解釈できる。これを代表仮説という。
 
  • エージェンシー問題とエージェンシーコスト
エージェンシー関係からは様々なエージェンシー問題が生じ得る。例えば、BerleとMeansが指摘した「所有と経営の分離」の問題は、株主と経営者の間で生じるエージェンシー問題と言える。株主に委託された経営者は、株主の意向通りに経営を行うとは限らない。実際、企業経営に関する専門的かつ高度な運営を期待されても経営者は、そのための努力を怠るかもしれない。あるいは、株式の保有が少ない経営者は、株主としての便益よりも、経営者という立場にメリットを感じて私的な利得を追求するかもしれない。
 
Jensenは、経営者がフリーキャッシュ・フローを使える状況においてこうした問題が顕在化する可能性を論じている(フリーキャッシュ・フロー問題)。ここでフリーキャッシュ・フローとは、正のNPVのプロジェクトを全て実行したとして手元に残るキャッシュを指す。
 
正のNPVのプロジェクトをすべて実行した後に残るキャッシュを、株主は配当等を通じて還元することを望むであろう。しかし、フリーキャッシュ・フローを株主に還元せず、経営者が私的な利得のために用いる場合、企業価値の毀損につながる。例えば、本社ビルに対して過度の投資を行うことなどが挙げられる。米国では社用ジェット機の購入やその使用方法などについて問題となることがある。これらはいずれも株主と経営者のエージェンシー問題であり、株主のエージェンシーコストを発生させる。
 
債権者と株主のエージェンシー関係においては、例えば資産代替問題が生じることが懸念される。株主は負債の返済を終えた残余利益に対する請求権者である一方で、有限責任制度によって、投資額以上に損を被ることがない。このため、債権者が望む返済可能性が高い案件よりも、収益の変動が大きい相対的にリスクの高い案件を選択する(リスクシフト(資産代替)する)インセンティブがある。負債の利用から生じる非効率性のため、負債のエージェンシーコストと言える。
 
  • エージェンシー問題と負債の活用
モニタリングや報酬制度の設計を通じて、依頼人の意向に沿わない行動を抑制することで、エージェンシー問題を緩和することが可能であると考えられる。例えば、債権者と企業のエージェンシー関係において、専門性を有する銀行が融資先企業のモニタリングを効率的に行うケースなどがこれに当たる。
 
しかしながら、モニタリングを行うこと自体、非常に高いコストがかかる、あるいはそもそも不可能な場合も少なくない。このようなケースでは、報酬体系を依頼人の意向に沿うように設計することも選択肢となる。例えば、ストック・オプションや株式報酬など、経営者が手にする報酬を株価と連動させることで、株主と経営者間のエージェンシー問題は緩和できる可能性がある。
 
さらに、株主と経営者のエージェンシー問題については、上記のフリーキャッシュ・フロー問題に対して、Jensenはフリーキャッシュ・フローの削減のため負債の活用を提案している。負債の活用は、債権者と株主間のエージェンシー問題を引き起こす一方で、株主と経営者間のエージェンシー問題に対しては軽減効果があることを含意している。
 
このように考えると、下記図にあるように株主のエージェンシーコストと負債のエージェンシーコストの間のトレードオフ関係によって、両者のエージェンシーコストが最小となるところで最適資本構成が決定される。
 
【図】負債のエージェンシーコストと株主資本のエージェンシーコスト、最適資本構成
負債のエージェンシーコストと株主資本のエージェンシーコスト、最適資本構成の図
 
 
 

 
(参考文献)
Adolphe, A. Barle., and Gardiner, Means. 1932. The Modern Corporation and Private Property. New York: Macmillan. 
Michael, C. Jensen.1986. Agency costs of free cash flow, corporate finance, and takeovers. American Economic Review 76: 323-329.
 

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