デフレ時代の糊代とは、デフレ・スパイラルを回避するため、デフレ・ショックに対する糊代(safety margin)として、予め、若干高めにインフレ率を設定しておくという考え方である。
例えば、インフレ率を0%とした状態で、デフレ・ショックが発生したとき、名目賃金に下方硬直性が存在するならば、名目賃金を引き下げることができないため、実質賃金が上昇し、労働需要が減少する。この結果、雇用、所得、消費が減少し、さらに物価が低下するというデフレ・スパイラルが発生する可能性がある。
これに対し、インフレ率が若干のプラスであれば、実質賃金を引き下げる調整が容易となる。同様に、名目金利にはこれをマイナスにはできないというゼロ制約が存在する。
ゼロ金利政策により名目金利がゼロとなり、インフレ率を0%とした状況で、デフレ・ショックが発生すると、期待インフレ率が低下するため、実質金利がプラスとなる。この結果、需要が減少し、さらに物価が低下する。これに対し、インフレ率を若干のプラスとしておけば、デフレ・ショックにより、実質金利は低下するものの、これがプラスとなることを回避する余地が高まる。
金融政策の主たる目的が物価安定であるならば、インフレ率の目標水準を0%とすることが望ましいように思われるが、実際には、1~3%程度の緩やかなインフレ率が目標水準とされる場合が多い。その理由は、「
物価指数の測定誤差」による上方バイアスの存在や、「デフレ時代の糊代」に基づいていると考えられる。