M&A(Mergers and Acquisitions、えむあんどえー)とは、直訳すると「合併と買収」。合併とは、複数の企業が法的プロセスを経て統合し1つの企業になることであり、買収とは、企業の経営権(支配権)を取得し傘下に入れることであるが、一般的には、これらに限らず企業・事業の支配権の売買や企業同士の経営統合全般を指す。
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【ポイント】
M&Aを経営戦略とする企業にとっては、自社の戦略にかなう買収対象企業(対象企業)を探したり、自社が売却したい事業を買ってくれる買い手を探すことを試み、そのニーズを把握した投資銀行のような金融機関が情報を伝達したり、取引の助言を行う。こうしてM&Aについての「市場」が形成され、個々のM&Aの取引金額の合計は「M&A市場」の規模となる。M&A市場は、株式市場を中心とする資本取引が早くから発展した米国において先行して拡大し、日本においても、1980年代から大手企業が海外で大型買収を行う等した結果、景気後退による一時的な縮小はあるものの、現在に至るまで金額・件数の両面で発展を続けている。
M&Aは支配権を売買する行為であるが、単純な物品の売買とは異なり、次のような固有の要素を持つ。
- その構成要素に人(従業員)が含まれる。
- 独自性・固有性が高い(2つとして同じ会社はない)。
- 売上や利益が変動し、将来の見通しが難しい(価値の見極めが困難)。
- 隠れた瑕疵が存在する可能性がある(買収後に問題が発覚する等)。
これら要素に対応すべく、M&Aの取引においては、対象会社を詳細に調べ上げるデュー・ディリジェンスというプロセスや、専門家による企業価値評価、買い手と売り手の間でリスクを配分するためのM&A契約等、独自の実務が発展してきた。
企業は通常、自社が有する技術や資産、人材を活用して新たな顧客を開拓し、また新しい製品やサービスを立ち上げる等してその価値を向上させようとするが、M&Aによって既に社外に存在する資源を獲得することにより、効率的に事業を発展させることができる場合がある。前者を内部的成長(Organic Growth)といい、後者を外部的成長(Inorganic Growth)という。M&Aは、企業が外部的成長を実現するための代表的な手法である。
またM&Aには、新しい事業や工場をゼロから立ち上げるのではなく、既に機能している外部の事業や工場を取得することにより、リスクを抑えつつ「時間を買う」効果がある、或いは有望な企業が同業他社に買収され自社の地位が低下することを防ぐ効果(防衛的効果)等があるとされる。
- ストラテジック・バイヤー(Strategic Buyer)とフィナンシャル・バイヤー(Financial Buyer)
事業会社(Strategic Buyer)によるM&Aの最終目的は、シナジーを実現してグループ全体の企業価値を高めることであるが、そのためにM&Aによって得られるメリットとして、例えば以下のようなものがあげられる。
1. 規模の拡大・地理的拡大
M&Aによって、同一市場でマーケットシェアを拡大し、業界の主導権を握れる可能性が高まったり、例えば原材料の調達量増加によりバーゲニングパワー(購買時の交渉力)が強化されたりする。また自社が未進出の市場に既に一定のポジションを獲得している企業を買収することで、事業を展開する地域を速やかに拡張できる。
2. 新規事業分野への進出
今後成長が期待されるものの、自社では必要な経営資源を持たない有望な分野で既に事業展開している企業を買収することにより、リスクを抑えつつ成長性の高い市場に参入できる
3. 対象企業の保有する機能・資産
対象企業が持つ販売ネットワークや工場等の製造拠点・研究開発能力・技術等の機能を取り込むことにより、自社の弱い部分を強化することが可能となる。また、例えば最新鋭の製造設備のような有形固定資産のほか、対象企業の抱える優良顧客・優秀な人材・付加価値の高いブランド・知的財産権等を獲得することができる
一方で、M&A市場には、本来の価値と比べて割安な企業を買収し、数年間の経営改善によって企業価値を高めた上で株式上場させる、或いは事業会社に売却することで経済的リターンを獲得する買い手も存在する。非上場企業を買収する、或いは上場企業を買収して非上場化した上で価値向上を図るプライベート・エクイティ・ファンドが代表的存在である。このような、事業会社とは異なる目的でM&Aを行う会社をフィナンシャル・バイヤー(Financial Buyer)と呼ぶ。