テイラー・ルール(Taylor Rule)とは、1993年にアメリカの経済学者ジョン・ブライアン・テイラーが提唱した
金融政策ルールの1つであり、インフレ率やGDPギャップ(実際のGDPと潜在的GDPの差)などの経済変数の変化に対し、政策金利をどの水準に設定すればよいかを示した関係式である。
上記式は、インフレ率πが目標インフレ率π*を上回るとき、また、実際のGDPが潜在的GDPを上回りGDPギャップが正の値をとるとき、政策金利を引き上げることを意味する。α1、α2は、それぞれ、インフレ率ギャップとGDPギャップに対し、どの程度、政策金利を反応させるかを表すパラメータである。テイラーは、上記式において、均衡実質金利を2%、目標インフレ率を2%と仮定し、これを1987~92年の米国のデータについて推定した。この結果、α1の推定値は約1.5、α2の推定値は約0.5であることを示した。α1の推定値が1を超えることは、経済が安定化するための条件であり、「テイラーの原理(Taylor’s Principle)」と呼ばれる。なぜならば、α1が1を下回るならば、インフレ率が上昇したとき、名目金利の上昇幅はそれを下回るため、この結果実質金利が低下し、さらなるインフレ圧力を生むことになるからである。このように、テイラー・ルールは、FRBの実際の金融政策から推定した関係式であるため、FRBがこのルールに拘束されることを意味するわけではない。
テイラー・ルールの定式化には、様々な拡張がある。例えば、短期金利の急激かつ大幅な変更は、金融システムや金融機関の経営に大きな衝撃を与える恐れがあるため、政策金利は平準化(スムージング)されることが望ましい。この場合、テイラー・ルールは、例えば、it=γ1it-1+γ2{r ̅ +α1(πt-π*)+α2ytと拡張される。it-1はt-1期(1期前)の政策金利、γ1は0<γ<1となる定数であり、γ1が1に近い程、t期の政策金利をt-1期の政策金利に近い値とし、より平準化することを意味する。
(参考文献)
白川方明『現代の金融政策 理論と実務』日本経済新聞出版社,2008年