さらに詳しく
【ポイント】
投資意思決定は様々な形の投資活動を対象とする。【表】は投資意思決定の例を示している。例えば、A電力会社の水力発電などの設備の購入は、有形資産の購入であり、設備投資の一種である。
また、B電子会社の宇宙関連など新規事業の研究開発への投資は、無形資産への投資の一例である。Cインターネット関連会社の発酵食品の研究や法人向けの会食予約サービスの新設、Dインターネット関連会社の駐車場のシェアリングサービスの新設といった決定も、無形資産投資の例である。
さらに、企業による新しい事業部門の開拓や内部にある既存事業の拡大以外に、企業外部にある既存の他の企業、あるいは他の企業の一部の事業を買収するようなM&Aに関する意思決定を行うことも投資の一種である。【表】のE化粧品会社の海外企業買収はその一例となる。
【表】
企業が投資意思決定を行う際の判断基準には、投資額と収益の純現在価値に注目するNPVルールと、収益率に注目するIRRルールがある。NPVルールとIRRルールは実質上同じ判断基準となり、実務上においては、IRRルールがより広く用いられている。
ただし、IRRルールを応用する際に、いくつかの点に留意しなければならない。具体的に挙げると以下4点となる。
①キャッシュ・フローの方向性、つまり、貸付か借入かを明確にする必要がある。
②キャッシュ・フローの符号の変化に留意すべきである。
③IRRルールは投資案件の規模やキャッシュ・フローの発生時期を考慮に入れていない。
④資本の機会費用を意味する割引率が複数存在する場合、これらの資本の機会費用の加重平均した値を計算しなければならない。
この①から④での対応を誤ると、投資判断を誤る可能性がある。このため、NPVルールは、より適切な判断基準であると言える。
現実の世界においては、NPV が正、あるいはIRRが資本の機会費用を上回っても、投資が実行されない場合がある。リアル・オプションという考え方は、こうした現象に対して、合理的な説明を与えている。
投資の第一義的な目的は
企業価値の最大化にある。具体的には、企業の役割は様々な投資を行って、投資家が自ら資金を運用することによって得られる収益率を上回るリターンをもたらすことにある。
そこで、投資プロジェクトの企業価値に対する貢献を計測するための会計上の指標が必要となる。例えば、当期純利益を期末資産と期首資産の平均値で除することで算出されるROI、投資家全体に帰属する利益及び
WACCで計算される
EVAはこれにあたる。
ただし、
エージェンシー問題の存在により、企業の投資行動は必ずしも企業価値の最大化のために行われるとは限らない。例えば、利己的な企業経営者は、豪奢なオフィスにお金を投じたり、企業規模を過度に拡大したりするような行動を通じて私的便益を求め、NPVが負の投資案件に投資を行う可能性がある。こうした懸念を払拭するために、株主は経営者に対して、
モニタリングを行う、
経営者報酬の設計に工夫をこらす、といった対策を講じている。