残余利益モデル(Residual Income Model、Excessive Income Model、RIM、りむ)とは、株主に帰属する企業価値を、会計利益を用いて算定するモデルである。
残余利益モデルは、この残余利益の現在価値の各期の合計額を、現時点における株主資本の簿価と足し合わせることで株主価値を算定する。
【図】残余利益モデルのイメージ
さらに詳しく
【ポイント】
残余利益モデルは、株主に帰属する企業価値を算定するという点で配当割引モデルと類似している。しかし、配当割引モデルが株主へのキャッシュ・インフローを用いるのに対して、残余利益モデルは会計利益を用いている点が異なっている。
理論的には両モデルで算定される企業価値は必ず一致する。これは、残余利益モデルが配当割引モデルに、クリーンサープラス関係という条件を加えることで導出されるからである。
クリーンサープラス関係とは、例えば、株主資本の増加額が親会社株主に帰属する当期純利益から支払配当を差し引いた額と等しくなっていることである。これは
貸借対照表と
損益計算書の連環関係が利益を通じて成立していることを保証する条件であり、基準設定において重視されてきた。
残余利益モデルは、
ROEと
PBRが企業価値と関連する指標であることを含意している。残余利益モデルの標準的な表現 (第 (1) 式) を、親会社株主に帰属する当期純利益をROEと株主資本簿価の積 (
roe*eq) に置き換えて第 (2) 式のように変形すると、ROE(
roe)と株主の要求最低利子率である株主資本コスト(
rE)との関係によって、株主資本簿価と企業価値の関係が決定することがわかる。
ROEが株主資本コストを上回っている (下回っている) 場合には、企業価値が株主資本簿価を上回る (下回る) のである。株価を企業価値として見立てた場合、PBRは株価を株主資本簿価で割ったものとして定義されるため、PBRが1を上回って (下回って)いることは、企業が株主の要求最低利子率以上の (以下の)利益を稼ぐと予想されていることを意味する。
伊藤レポートは、ROEを最も重要な業績指標の1つとして取り上げている。これは、この残余利益モデルの含意にもとづいている。当該レポートは問題意識の1つとして、日本企業のPBRが諸外国よりも低いことを挙げている。その解決策の1つとして、ROEと株主資本コストの両方を重視した経営を推薦している。これは上で議論した残余利益の含意と整合することは明らかだろう。
【式】残余利益モデル
残余利益モデルは、実際に企業価値を評価する際に、比較的精度が高いという実証的証拠がある。配当割引モデルと残余利益モデルを比較すると、配当割引モデルはすべての項が将来の予想値である一方で、残余利益モデルは評価時点の株主資本簿価を用いている。
評価時点の実績値を用いることによって、予想誤差を小さくできると考えられている。またそれと整合する証拠が蓄積されており、会計利益がキャッシュ・フロー情報よりも有用であることを正当化する際に援用されることがある。