企業間信用(Trade Credit)とは、商品売買における買掛や売掛、約束手形を通じた信用取引のことである。売り手と買い手は事実上の貸借関係にあり、売り手は、
売上債権として売掛金、あるいは受取手形を計上し、買い手は、
買入債務として、買掛金・支払手形を計上する。
さらに詳しく
【ポイント】
商品の売買取引を企業間信用によって行う場合、売り手は売上債権を有し、買い手は買入債務を負うことになる。
例えば、掛けによって商品の売買取引が行われた場合を考える。掛けによる売買取引は、売買代金の授受を直ちに行わず、後日、決済するという取引である。この取引を売り手側から見ると、売掛金を計上し、買い手からの売買代金の支払いを猶予していることになる。これは事実上、売り手が買い手に決済日まで貸付を行っていることに等しく、売り手は売上債権を有していることになる。
反対に、買い手側から見ると、買掛金として売買代金の支払いを猶予してもらっていることになる。これは事実上、買い手が売り手から決済日まで借入を行っていることに等しく、買い手企業は買入債務を負っていることになる。
企業間信用は売り手と買い手の商品取引の性質から必然的に支払が後日となる可能性があり、取引費用の削減などがその理由として考えられる。
しかし、このことは、例えば売り手側で見ると、売上の発生と決済の時点がずれるため、会計上の収益の発生と売上による現金収支が一致しないことを意味する。したがって、利益を計上しているにも関わらず、決済が完了していないために手元流動性が不足する可能性が生じる。結果として、売り手が支払い不能に陥り、黒字倒産といわれる事態に陥る可能性が懸念される。
企業間信用は、金融仲介機関との貸借関係などと比べて、
情報の非対称性の観点から潜在的にコスト優位性を持つ可能性がある。具体的には、①情報生産におけるコストの優位性、②返済を促すために必要なコストの優位性、③
担保処分に関するコスト優位性、にわけることできる。
①に関して、売り手は買い手と日常的に取引を行っているため、買い手の支払い能力について、注文の大きさやタイミングなどを見て比較的早期にかつ低コストで判断可能であると考えられる。そのため、売り手には、金融機関よりも情報生産においてコストの優位性があり、企業間信用の利用に経済的合理性がある可能性が考えられる。
②に関して、商品を販売する売り手が買い手にとって代替のきかない重要な取引相手であれば、売り手は、買い手の支払いが滞ることに対して販売量を渋るなど、信憑性のある脅しとして機能する可能性が考えられる。
③に関して、買い手が企業間信用による購入代金を返済できない場合、売り手は販売した商品を差し押さえ、これを迅速に処分することで販売代金を回収できる。このことから、売り手が販売した商品を担保としたうえで、買い手は信用供与を受けていると解釈することができる。
以上のコスト優位性に関する具体例からわかるように、銀行借入と代替的な関係にあるのか否かなど、企業間信用の経済的機能は学術的にも関心が高い。