経営者のショートターミズムとは、経営者が本来投資すべき投資プロジェクトよりも、短期的な利益を獲得可能なプロジェクトに過剰に投資することを意味する。他方、投資家のショートターミズムとは、投資活動において、短期的にリターンの獲得を目指す行動を指す。
ショートターミズムにはいくつかの要因があると考えられている。例えば、合理的ではない個人がショートターミズムに陥ると説明されることがある。遠い将来の利益を獲得することが合理的であっても、個人がその利益を認知できない場合には短期志向に陥ってしまう。
合理的な個人であってもショートターミズムに陥る可能性がある。これは個人のインセンティブによって説明することができる。もし経営者の在任期間が5年だった場合、その経営者は自身の在任期間の企業利益を最大化するような行動をとる可能性がある。
このように経営者が自身の在任期間に関して合理的な行動をとることによって生じる問題を、
キャリアコンサーンの問題と呼ぶ。また、投資家の報酬が毎年の投資リターンによって決定される場合、彼らは自身の毎年の報酬が最大になるよう短期的なリターンを求めることが合理的な行動になる。
ショートターミズムが主たる問題として取り上げられるようになった一因として、英国のケイレビュー(Kay Review)が挙げられる。同レビューでは、2008年の金融危機を踏まえながら、企業が過剰な金融化に巻き込まれ、短期的な利益を志向することを憂慮している。
日本では、伊藤レポートは企業がショートターミズムに陥っていることが持続的成長を阻害する第1の要因であると指摘しており、そのうえで、ショートターミズムが、資本市場の短期志向と強くリンクしている可能性を示唆している。
具体的には、四半期財務報告や企業内外の短期的業績予想を達成するための経営や
利益調整によって、長期的な収益源となる設備投資や研究開発投資を控える傾向にあると懸念している。ほかにも、経営者の在任期間が短期的かつ固定的であることが原因であるとも指摘している。
他方、投資家のショートターミズムの原因として、①長期的に株価上昇期待が薄い状況下での合理的意思決定の帰結、②日本の投資コミュニティ(
機関投資家やアナリスト)において短期志向を促すインセンティブが働いていること、③企業側から中長期的な価値創造を理解するための効率的な情報公開がなされていないこと、④四半期開示などの短期志向を助長し得る制度的な仕組み、を挙げている。
これらの問題に対して、伊藤レポートは、企業が投資家との長期的な関係を構築し、ショートターミズムを回避することを推奨している。また欧州では四半期決算が廃止されるなど、具体的な対策が取られ始めている。