期待効用理論(Expected Utility Theory)とは、不確実性を伴う意思決定において、その選択肢に対する選好関係が、
効用の期待値(期待効用)の大きさにより決定されるとする意思決定理論である。
期待効用理論では、意思決定者は期待効用が最大になるような選択・行動を取ることが仮定される。
さらに詳しく
【ポイント】
期待効用理論は、不確実性下の意思決定に直面する個人がどのような選択・行動を取るかを表す意思決定理論である。不確実性下の意思決定の例としては、賭けを行うかの選択や、保険に加入するかの選択、金融資産への投資の意思決定などが挙げられる。
期待効用とは、不確実性を伴う意思決定を行ったときの様々な結果に対する満足度、すなわち効用について、各結果が生じる確率で加重平均したもの(期待値を取ったもの)である。例えば、次のような2つのくじAとBがあったとする。くじAは、50%の確率で2,500円がもらえるが、50%の確率で何ももらえない。くじBは、60%の確率で900円がもらえるが、40%の確率で400円しかもらえない。さらに、個人の効用(このような効用を表す関数を、
フォン=ノイマン・モルゲンシュテルン型効用関数と呼ぶ)は、もらえる金額の平方根を取ったもの(すなわち、√x)で与えられるとする。このとき、それぞれのくじから得られる期待効用は、次のように表せる。
この期待効用の大きさに基づいて、これらのくじに対する選好関係が決定される。期待効用理論に基づけば、このような2つのくじから1つのくじを選択する意思決定においては、個人は期待効用を最大にするくじBを選択することになる。ここで、くじAの結果の期待値は1,250円、くじBの結果の期待値は700円になることからも明らかなように、期待効用理論に従う個人は、必ずしも結果の期待値の大きさをもとに行動するわけではなく、個人の選択は効用関数の形状に依存している。特に、この効用関数の形状は、個人の
リスク選好を表している。
期待効用理論は、個人の意思決定が以下の基準(公理)から導かれる意思決定理論である。
- 完備性: すべての結果の組に対して、その選好関係が明らかにされている。
- 推移性: 結果Aが結果Bよりも望ましく、結果Bが結果Cよりも望ましいのであれば、結果Aは結果Cよりも望ましいとされる。
- 連続性: 結果Aが結果Bよりも望ましく、結果Bが結果Cよりも望ましいとする。ある確率pで結果Aが得られ、残りの確率で結果Cが得られるくじXを考えた場合、そのくじXが結果Bと同じだけ望ましいような、くじXの結果に対する確率pが存在する。
- 独立性: 結果Aが結果Bよりも望ましいとする。ある確率pで結果Aが得られ、残りの確率で結果Cが得られるくじXと、同じ確率pで結果Bが得られ残りの確率で結果Cが得られるくじYを考える。このとき、くじXはくじYよりも望ましいとされる。
これらの4つの公理に従う個人の意思決定は、期待効用の下で意思決定を行う個人の選択・行動と同じになることが示されている。すなわち、ある個人の意思決定方法が上記の4つの公理を満たす限りにおいては、その個人は期待効用を最大化するような選択・行動を取ると代替的に表現することが可能となる。
個人の意思決定方法が上記の4つの公理を満たさない場合には、期待効用理論による個人の意思決定が、実際と異なってくる場合が生じる。実際の個人の意思決定が期待効用理論の4つの公理に従わないことは、これまでに様々な反例により示されている。
特に、期待効用理論において最も重要な役割を果たすのが、独立性の公理である。この独立性の公理に対する1つの反例として挙げられるのが、
アレの逆説である。アレの逆説は、個人が確実な結果をもたらす選択肢を選好するという
確実性効果から生じていると考えられている。
また、同じく独立性の公理に対する反例として挙げられるのが、
エルスバーグの逆説である。エルスバーグの逆説は、不確実な意思決定に直面する個人は、結果に対する確率が分からないものよりも、確率が判明している選択肢を選好するという
曖昧性回避から生じていると考えられている。