通貨危機(Currency Crisis)とは、
固定為替相場制度を維持している国において自国通貨の価値が大きく下落して固定為替相場制度の維持が困難になる状況を指す。
外国為替市場での
投機攻撃によって自国通貨売りが進み、通貨当局が
外貨準備を使って自国通貨を買い支えきれなくなった結果、
変動為替相場制度への移行を余儀なくされる。
第1世代モデルは経済のファンダメンタルズの悪化によって通貨危機を説明するモデルである。第2世代モデルでは投資家の投機攻撃に対する通貨当局の防衛というゲームのなかで、固定為替相場制度の維持可否に関する投資家の予想によって通貨危機の発生を説明している。第3世代モデルでは、国内銀行部門の脆弱性による金融危機と通貨危機の併発を説明している。
通貨危機は発生国だけでなく周辺国と国際経済に対して、深く長期にわたる影響を及ぼすため、
IMFや先進国が中心となり通貨危機の発生を防ぐ取り組みも行われている。
第1世代モデルの通貨危機については、財政赤字削減や外貨準備の積み増しなどファンダメンタルズ改善のための指導と、
最後の貸手機能に基づく資金供給による流動性の確保を行っている。第2世代モデルの通貨危機については、ファンダメンタルズに関するヒアリング(サーベイランス)を行い継続的にモニタリングしている。ファンダメンタルズが良好であるにもかかわらず投機攻撃を受けた国に対しては、資金貸付を行い支援する。第3世代モデルの通貨危機では、本来淘汰されるべきパフォーマンスの悪いセクターが存続していることが通貨危機発生の原因となっている。
IMFによる最後の貸手機能の存在は、こうした赤字セクターのリスクをIMFの支援が補うだろうという予想によって非効率な投資が行われるというモラルハザードを生み出しているという指摘もある。こうした状況下で、民間の貸し手も政府破綻や通貨下落のプレミアムを取って投資を行っている以上応分の負担をすべきという議論もあり、IMFの支援プログラムに民間部門を取り入れる、民間協力型(Private Sector Involvement, PSI)という機能もある。
(参考文献)
橋本優子・小川英治・熊本方雄,『国際金融論をつかむ』,有斐閣,2007年